朱の蝶

「・・・
 そして、さっき駅で見たのが
 こいつ等の奥さんと娘
 
 所帯持ちだからこの二人には
 くれぐれも近寄らないように
 
 特にカイリには気をつけて」

「お前まで、言うか」

ルイ・・・

この名前も、私聞いたような
気がする。

私は今、兄の宿敵に囲まれて
過ごしている。

兄の最後の時を知っている
人達と一緒に・・・

だけど、少しも苛立ちや復讐の
気持ちは湧き上がってこない

彼らは、私にとって憎い人達の
はずなのに、こうして楽しそう
に会話を交わす彼らを、私は
とても憎む気にはなれない。

どうしてだろう?

彼等に兄の最後を聞いてみたい
ような気さえする。