朱の蝶

そんなものは何も無い。

『ただそこにあるだけ』

お飾り・・・

それが、どれだけ

どれほど、窮屈か・・・

私は、後に知る。

組長の席、机の片隅に
着物を着た7歳の千景の姿が
映る写真が数枚飾られている

その一枚には、髪飾りを弄る
千景のアップの姿・・・

乱れた、長い髪を掻き揚げる
細い腕、指先・・・

私は、聞きたくない声を
今、聞いている。

「チカゲ、おいで」

深く、低い声で私の名を呼び

血生臭い手で、私を抱くのは

大勢の組員の前で、私に組長
になる事を半、強制した男

篠 一新(シノ イッシン)