あの日、蒼森さんは日勤で。


午後の検温にまわっていた―――




(再び回想)


「失礼します。朝比奈さん、お熱教えてもらえますか?」


今日も笑ってるけど、顔、やっぱり固いなぁ…。


そう思って彼女を見ていた。


「あ、6度6分です。」


彼女は体温をメモしてから、


「…はい。では脈…」




ふと、彼女の言葉が途中で止まった。




彼女の顔を見ると、視線は俺の布団の上。


詳しく言えば、村上春樹作、『ノルウェイの森』。




彼女は数秒本の表紙を見つめ、


「あ、ごめんなさい…。」


そう言って、脈を測り始めた。