「石橋さーん」
 咲月がこっちに来る。
 あんまり、俺の近くにくるなよ。
 辛くなるじゃねぇか。
「林原先輩、おめでとうございます」
「あのさ、岡田が石橋さんのこと呼んでたよ」
 岡田先輩が?
 何で?
「岡田先輩がですか?」
「おーい、林原ー」
 岡田先輩の声。
「あ、岡田。そこにいるよ」
「あ、咲月ちゃん」
 咲月ちゃん?
 何で、下の名前で……。
「これ、あげるよ」
 岡田先輩が差し出したのは、古い上靴。
「いや、いらないですよ……」
 そりゃ、いらねぇよな。
「あと、名札も」
「あ、ありがとうございます」
 名札はもらうんだ……。
 ショックを受けている俺。
 これが嫉妬っていうやつなのか?
「これ、ホワイトデーのやつ」
 咲月、バレンタインに岡田先輩にあげたのかよ……。
「いや、でも、私岡田先輩にあげてないですよね?」
 なんだ、あげてないんだ。
 安心する俺。
「いいのいいの」
 なんか、悔しい。
「そして、これ」
「え?」
 岡田先輩が咲月の手のひらにのせたもの。 
 それは、ボタン。
 ボタンに何の意味があるんだよ。
 上靴もそうだけど……。
 でも、上靴はもう使わないから分かるけど、ボタンをわざわざ外してあげる人なんているのかよ。
「これ、第2ボタンですか?」