「え?もう?」
父は頷き、そしてアタシを包み込んでくれた。
『弥生…素直になりなさい。正直に話しなさい。お父さんは、いつまでも弥生の幸せを願っているよ』
父を包んだその光は、暖かい風と共にフワッと舞い上がり、木の先端で消えていった。
すると、どこからか1枚の黄色い銀杏の葉がヒラヒラ落ちてきた。
銀杏を見ると思い出す、あの日…
父が亡くなる数日前、アタシと一緒に散歩した最後の日、ハラハラ落ちてくる銀杏の葉を見て
『綺麗だなぁ』
と、言って泣いていた父。
景色を見て感動した涙なのか、残された日々を思っての涙なのか、今はもう分からない。
そんな思い出深い銀杏の葉が、アタシの前に落ちてきた。
『銀杏の木なんて…無いのに…』
アタシは、そっとそれを拾い、ゆっくりと大木を後にした。
父に言われた言葉を、心で何度も繰り返しながら。


