朝起きても物音一つしないこの部屋は、私が嫌いだった境とママのマンションを思い出させる。 「行ってきます」 無意識にそう言ってしまう自分が悲しい。 きっと学校から帰って来る頃には、伸也さんは何事もなかったように笑いかけてくれるはず。 そう信じたい。 伸也さんは大人だから大丈夫だと、何度も言い聞かせて学校への道のりを歩いた。 高校に歩いていくのは初めてかもしれない。 朝、こうして歩くのも悪くないな。 夜は賑やかなこの街も、人一人いなく、静まり返っている。