【完】TEARS−ティアーズ−



「何でそんな事を言われなきゃいけないの、って怒っちゃうかもしれないけど。
事実、篠原さんとの噂が出た頃から郁君変わっちゃったんだもん」



郁君が変わった?


あたしの知ってる郁君は、出会ってから何も変わってないよ。

優しくて、だけど不器用で。

ちょっと愛想が悪くみえるけど、それは照れ隠しで。



「サッカーの試合にだって出られないかもしれないし。
自主練だって急にしなくなっちゃったし。
遅刻も増えたし、練習にだって身が入ってないって監督にも怒られてる」



そんな話聞いた事ないよ?

いつも『今日も疲れたー』って言ってて。

あたしは、それに『お疲れ様』って言う。


いつもそれだけだった。



「私、後悔してるの。
こんな風になるんなら、郁君ともっと話をすれば良かったって。
自然消滅なんかで別れるんじゃなかったって」

「それって……どういう意味?」

「私ね、郁君の事がまだ好きなの。
やり直したいって思ってる」



宮坂さんの言ってる事が、グルグルと頭の中で回って。

よくわからない。


あたし……。
郁君はサッカー部で、サッカーが大好きだって事しか知らないかもしれない。



そういえば、あたし郁君がサッカーをはじめたキッカケすら知らない。

そういえば、あたし郁君の好きな選手すら知らない。

そういえば、あたし郁君の背番号すら知らない。

そういえば、あたし郁君がサッカーを続ける理由すら知らない。

そういえば、あたし郁君の進学すら知らない。



『今の郁君には篠原さんと付き合うことは、マイナスになってる気がする』

さっき言われた宮坂さんの言葉が頭に過ぎる。


あたしと付き合うことで郁君は、マイナスになってるの?

郁君にとって、あたしはプラスにならない存在なの?