唇をかみ締め、チラッと郁君を見上げると。


口元に手を当てて、あたしを見下ろす郁君がいて。



「……乃、亜」



なんて呼ぶから。



いや、呼んでって言ったのはあたしなんだけど。

でも、急に呼ぶから。



顔は真っ赤になっちゃって。

あたしの目は見開いて。

ジワーって涙が溜まっていく。



ただ名前で呼ばれただけなのに。

恥ずかしくて、嬉しくて。



「あー、やっぱナシ!」



今、名前を読んだときの数倍もあるような大きな声。

ビクンッとなったあたしは、郁君を見上げる。


そこには真っ赤な顔をした郁君が居て。



「少しずつでいぃ?」



なんて言われて。

ドキドキが止まらなくなってしまった。