深島が月帆と出会ったのは、神奈川のきれいな海の近くでだった。

彼の方から声をかけた。
性的な目的があったからではない。朝っぱらから盛るなんてとんでもない、彼は女に飢えていなかった。彼は中々格好良い男性だったから。



彼女は透き通るようなヒトだった。
漆黒の瞳は何もかも見抜かれそうで、いつでもきらきらと輝いている、まるで夜空のようなものだった。
彼はその瞳に自分が映ったとき、恋におちた。
それからはもう、アプローチにアプローチにアプローチをし、ようやく愛しい彼女を恋人に出来た。
その時はまだ、彼女が何故、早朝に神奈川の海にいたのか知らなかった。


彼女はきれいな名前を持っていた。葛城月帆。透明な名前は彼女にぴったりだと納得した。その時彼女は東京に住んでいて、深島はそれを聞いて驚いたのを覚えている。

直ぐに越してきたとはいえ、何せ出会った場所が神奈川県の浜辺なのだ。



月帆は常に泣きそうな顔をしていた。
深島が声をかけた理由にも、これが含まれていた。
けっしてそれだけではないが、その他の理由は言葉にしにくいものだから彼は誰にも言ったことがない。

家族や親友の誠人、月帆にすら言っていない。
彼は本当の理由は死ぬ間際にでも教えてあげると彼女に言ったが、その時は本気で彼女に怒られた。一週間なんて可愛いものだ。彼は一ヶ月ほど彼女に他人行事な対応された。看護婦の彼女と医者の彼は必然的に同じ職場なのでそれはとても堪えた。開業医は辛い、と哀しくもこんなことで実感させられた。





今、こうして幸せに結婚生活をおくれていることに、深島は違和感を抱いていた。

彼女と出会ってから、色んなことがあり過ぎたせいだろうと、彼自身解っている。