海と微熱の狭間で

寒い廊下をずっとゆくと、ずっしりとした扉がある。

鍵を取り出し、扉を開くと何とも言えないインクと紙の匂いがする。

可純はこの匂いが好きだった。


十畳ほどの書庫は、几帳面なすみれに細かく分けられた本棚がずらりと並んでいる。


「孔子だから…こ、こ…」

作家別なので直ぐに見つけられる。


可純は本を取り出し、片手に持った。


ア、カ、サ、タ…と続いていく作家名を眺めながら進んでいくがガチャ、という扉が開く音が聞こえたので足を止めた。ちょうど宗教や思想のコーナーに入ろうとしているところだった。


誰だろうか?


「あ」
可純は原野の姿に目を瞬かせた。

「本あったか?」

酒のせいでほてって頬を赤らめている原野に笑いかける。

「うん、涼みにきたの?」

原野が曖昧に微笑んだ。

「…あの、話があって」

可純は持っていた儒教の本を何頁か捲った。
だが後で葛城と一緒に読もうと思い直し、本を閉じる。

「へえ、どうしたの?」
視界に入った聖書の本を取る。
何頁か捲るとアダムとイブの話が書かれてあった。