海と微熱の狭間で

縁側から見える庭は物憂げに色付けてられており、冷たそうな池には錦鯉が優雅に泳いでいる。


可純は白猫の桜色の鼻頭を優しく撫でた。

懐いている猫のマリーはごろごろと甘えた声をあげている。


「可純、風邪ひくわよ」

あおいが優しい低い声で声をかけたので、可純はマリーを抱きながらこたつに入った。

温かいそれは、満腹な可純にとって睡眠を促すものだった。


「なあ、やっぱりさー結婚したら俺たちと暮らそうぜ。健司も!この家無駄に広いし、な?」

酒のせいか甚が少し拗ねたような声で言った。

原野と葛城は困惑気味に笑っている。

あおいが呆れた顔をして甚を窘めた。

「甚、やめなさい。悠沙たちにはそれぞれ事情があるんだから」

「なんだよ、あおいは寂しくないのか?悠沙群馬に店舗出すんだろ、滞っちまえ」

可純は葛城が淹れた美味しい紅茶を味わうと、こたつから出た。

寝てしまいそうなので書庫にいくつもりだった。

「あ、可純!どこ行くんだよ」
葛城が狡い、とでも言いた気な顔をした。

マリーは可純よりこたつを取ったらしい。


「ん、書庫にね」
市瀬家の書庫は数えられないくらいの書物が収まっている。

論文や小説、聖書や雑誌、外国の書物まで多々ある。
図書館まではいかないがそれはもう、古本屋以上はあるだろう。


可純は儒教の書物が久しぶりに読みたくなった。

甚が顔をしかめた。
「書庫行くのか?さっみーぞ、書庫は」

カビが生えないよう、ある程度の温度に設定している書庫は、夏にはちょうどよく冬には少し冷えたように感じる。

「平気だよ」
葛城が何か言いたげに可純を見ている。

何となく、何が言いたいのか解る。

「可純、孔子のやつ読みたいから持ってきて」

可純は思わず噴き出した。

「私もそれ取りに行こうとしてたの」

まさに、だ。