海と微熱の狭間で

葛城の火照った頬を見て、原野は訝しげに声をかけた。

「悠沙?どうした、んな顔して」
葛城は曖昧に笑うと、栗の殻と格闘している可純から栗を取り上げた。

キレイに剥いて渡すと、可純は嬉しそうに口に含む。

「まあなんていうのかな。策士策に溺れる?ん、なんか違うな」
可純がぶつくさと呟きながら栗の入った紙袋を原野に向けると、原野は呆れたような顔をしながらも紙袋から一つ栗を取った。


「おい、策ってなんだよ」
葛城が憤慨したように言ったが可純は聞き流した。

「さて、お母さんたちも待ってるし、行こうか。あと十五分ぐらいだよね?」
原野が栗の殻をゴミ箱に捨てると「うん」と返した。



無視されて不貞腐れてる葛城を尻目に、可純は原野に向かってにやりと笑った。

「今日泊まってくでしょ?お父さん絶対客にお酒ガンガン飲ますからね。諦めて」

葛城も殻を捨てると、キーを片手に車に向かう。


「甚さんすっごいもんな。あの人ほんと何歳なんだろ」

葛城が笑った。原野は言いながらも苦笑している。

可純は自分の父を思い出した。
歳のわりに格好良い父。
嫌になるくらい無邪気で今でも好奇心旺盛な父は周りから評判が良かった。
娘としてそんな父はたまに疲れるが、葛城や原野に好かれているのは嬉しいものだ。


「お母さんはお母さんでにこやかにお酒勧めるしね。あの人たちザルだから付き合ってたら自滅するよ」

可純はイギリス系アメリカ人である淑やかなラベンダーを思い返し、しみじみと言った。


車は冷えていて、早くエンジン温まってくれ、と思わずにはいられなかった。