葛城が常人より幾分か見目麗しいのは、可純にとってどうでもよいことだった。

容姿に拘る訳ではなく、中身に惹かれているのでもない。

そんなことからは懸け離れたものに、可純は縛られているのだ。


飾られた運命という言葉よりも、
陰欝の海底と澄んだ海面、そちらの方が二人の関係にしっくりくる。

どちらが海底だとか、海面だとかは決まっていないのだけれど、その二つもまた離れることはない。
そこだけが、重要なのだ。







「ね、ねえ…あのヒト…」
「う、うわぁ…」
きゃあきゃあ騒ぐというより、惚れ惚れと感嘆の吐息に交ざらせ、女子学生たちは声をあげた。


あまりに美しい葛城の容貌を見たヒトは大抵こんな反応をするので可純にとってあまり物珍しくなかった。


葛城は本を真剣に選んでるようで全く気付いていない。
彼にとって日常茶飯事なのだから、気に止めるわけがないのだけれど。


可純は改めて葛城を眺めてみた。
本に集中してる姿はとても知的である。としか可純にとっていいようがないのだけれど、やはり端整過ぎるのは嫌でもわかった。

程よく目許に流れているさらさらな黒髪や、すらりと長い手足。銜えて整った顔立ち。
誰だってうっとりしてしまうだろう。


「可純、これとこれ、どっちが読みたい?」
葛城が二冊あげた。
主に二人で読むので意見が合わなくてはいけない。

「こっち」
可純は右側の本を指差した。


おっけ、と葛城は嬉しそうに言った。

「こっちのが読みたかったんだ」

それでも

綺麗な顔より、この笑顔の方が何倍も魅力的だと、可純は思う。