深島は涙を零した妻をそっと抱き締めた。

朝海が可愛らしい顔を心配そうに曇らした。
いつもは見せない母の涙に朝海も今にも泣き出しそうになっていた。

「あー…泣くな泣くな、文子さん…」

家政婦の文子が優しく微笑む。

「はいはい、分かってますよ。朝海さん夕食前にお風呂へ行きましょう」

「でも!おかーさんが~…」
文子が優しい顔に怒りを作ってみせる。

朝海が焦れったそうに地団駄を踏んだ。

「わっ分かったよぉ!文子さんの意地悪!」
「何とでもおっしゃって下さいな」

朝海が膨れっ面して、文子を可愛らしく睨むと、直ぐに月帆の元に駆け寄った。

「おかーさん泣かないで?ね、おかーさんの好きな椿をあげるから!」

朝海はジャンバーのポケットにちっちゃな手を入れ、椿の花を出した。

それを月帆に向けると、月帆は涙で濡らした顔で朝海を見た。

「…朝海く…」
月帆は大粒の涙を流した。


ありがとう、と聞こえないくらい小さな声で言い、椿を受け取ると朝海ははにかみを見せた。

「ううん!ぼく、お風呂入ってくる!」

文子と手を繋いで風呂場に向った朝海を見て深島は苦笑を漏らした。

「ちゃんと三十数えて上がるんだぞー」

はーい、と可愛い声を聞くと深島は愛しい妻に微笑みかけた。


「椿、綺麗だね」
「…ん」



彼女が椿を好きな理由。
それを知ってるのは、深島と、