可純は微かに笑った。

確かにそうかもしれない。
だが、それでいいと葛城が言うなら、可純はそんなことどうでもよかった。

「原野くんは先走り過ぎなんだよ。忘れたの?私たちの存在意味」
冷たくて、ひんやりとしてる可純の声。

けっして可純は報いを求めない。

そして葛城がもし救われたとしても、葛城を束縛しない。

葛城が必要ないと言うならば清く別れるだろう。

葛城と付き合う時、そう決めていたのだ。

周りからどれだけ酷い、淡泊過ぎると非難されても変わる事はない。


可純は葛城が好きだ。だけど、それだけなのだ。




「…俺は悠沙が後ろを振り返って欲しくない」

可純は真っ直ぐ前を見ながら笑った。


「うん、私もよ。救われればいいってもんじゃない、なんてもう言わせたくないの」

原野は可純を選んだ悠沙の気持ちが解った。
緩んでしまう口許を隠すまでもなく。

「…俺たち悠沙に甘いよなぁ」
可純が含み笑いを浮かべた。
「何を今更」


葛城の心を急かすのはもうしないと可純は誓った。

プロポーズされた日に嫌になるぐらい身に染みた。

離れるのはもう、ムリになってしまった。

可純だけでなく、葛城も。そして原野も。


一緒にいたいならどうすべきか。

無論、

急かさず、ただ添うことだ。