朝海は嬉しそうに、笑った。

「ほんと?嬉しいな、初めて言われたよ」

どうやら可純に懐いたみたいだ。

可純も優しく朝海の目線にしゃがみ赤い頬を撫でた。


「ふふ、ほっぺ真っ赤よ。寒い中お外で遊んでいたの?」

朝海ははにかみながらうん、と頷いた。
可純の表情はいつも以上に美しく、深島は何故だか酷く安堵した。



ふと、深島は朝海がジャンバーのポケットに入っている花に気付いた。

「朝海?これ、どうしたんだい?」

朝海は得意気に笑うと三人に見せた。

それは、早咲きの椿の花だった。



「きれいだから取ってきちゃった!おかーさんにあげようと思ってるんだ~」

原野がますますくしゃりと顔を歪めて座り込んだ。

深島は訝しげに、可純はじっと黙ってる。

朝海が吃驚して困惑した。

「えっ?えっ?おとーさん、このお兄ちゃんどうしたの?」
びょーき?ケガしてるの?それともぼく悪いことしちゃった?

心配そうに何度も尋ねる朝海に原野は鼻の奥がツンと痛み、堪えていたものが堰を切ったように溢れ出した。


「…お母さんが好きなんだよな?椿の花…」
朝海が驚いたように原野を見た。その顔には笑顔が浮かんでいる。

「うん!そうなんだ!お兄ちゃんよく知ってるねー!」

無邪気に笑う朝海に原野は自分のもっとも大事なヒトを思い出した。


優しい優しい朝海。
月帆は椿が好きなのだと優しい表情で教えてくれた大事なヒト。


可純が原野の肩に触れた。

「君のお母さんは幸せものね」
朝海が笑う。深島も、きっと月帆も。