「おとーさんっ」

愛らしい声が背後から聞こえた。

可純と原野は言葉を飲んだ。できれば会いたくないと思っていたに違いないと深島も思う。

大人だけがもつ汚らしい思いは、愛くるしい天使に通用しない。


深島は少し悲しくなったが、めげずに笑う。
遊びから帰り、自分の元にかけてくる息子を抱きとめた。

「おかえり。秀君たちと遊んでたのかい?」
慈愛に満ちた表情で問う深島に二人は黙って見ている。


「うんっ!ね、この人達だぁれ?」
ぱっちりと大きな目で上目遣いに二人を見つめる。漆黒の瞳は美しく少年はとても可愛らしい。

さらさらな瞳と同色の髪を深島は撫でた。


深島は切なさに眩暈がした。

いとおしいこの少年は、あの人によぅく似ている。


「…僕の友人だよ。可純さんと健司くん。ほら、ご挨拶は?」


少年は恥ずかしそうに頬を赤らめながらもにっこりと笑った。


それを見て可純は何とも言えない息苦しさを覚えた。


「はじめまして!ぼく朝の海であさみっていいますっ」

誇りを持っていう朝海に可純は柔らかく笑った。
隣りにいる原野は仏頂面をして黙り込んでいる。


「…朝海くんかあ…綺麗な名前だねー」

そう、瞼を伏せたくなるくらい、綺麗な名前。