海と微熱の狭間で

可純は内心溜め息を吐いた。


「お前らどーしたんだよ?そんなギスギスしちゃって」
原野は苦笑しながら可純と葛城を見やった。
葛城は絶望的な雰囲気をまとい、下を向いている。答えるつもりはないらしい。


「…喧嘩から別れ話へ、かな?」
可純は極めて何でもないかのように言った。
葛城はそれに反応して初めて可純を見た。

「なに?別れちゃうとこだったの?うわ、よかったー可純と出くわして」

場を考えず人懐っこい笑顔を見せながら言う原野に可純は呆れて苦笑した。


「でも無理よ。私日本に帰るから」
葛城の顔が青くなった。

原野はやはり笑顔でいる。
ポーカーフェイスの原野の本当の表情が、可純は手にとるように解った。

申し訳無さが募るが仕方ない。
可純には葛城は相応しくない。

「…葛城くんは、」
救われたくないのでしょう?


可純は後が続かなかったことに愕然とした。
原野はそんな可純を見た後、続けて葛城を見た。

「…俺が思うにはな、好きなら遠慮なんかなしで我が儘になればいいと思うんだ」

原野は何があったかまるで解っているかのような口振りだった。

可純は親友の言葉に戸惑ってる葛城を見て考えた。

これは、私にも言ってるよね?


「…悠沙、お前は可純が好きか?」
原野がほんの少し、表情を歪めて尋ねた。
葛城も可純も。気付くことはなかった。




「…当たり前だろ」
ただ。
無性に嬉しくて悲しくて、

可純は葛城に縋ってしまいそうになった。