海と微熱の狭間で

葛城が改めて紅茶とお菓子を用意してくれた後、可純は彼にキーホルダーを差し出した。

ラジオからは洋楽が流れている。


「…くれるの?」
葛城はキョトンとした顔をしながらも受け取る。

可純は自分の鍵を見せた。

「水族館で買ったの。お揃い、いや?」
葛城は表情を緩ませた。
「ううん…ありがとう」

葛城は自分の鍵を取り出して付けた。
彼の左手の薬指にも指輪が輝いている。


可純は喜んでくれたことにホッとしながらも花束を持った。

「私も…これと、指輪。ありがと」

可純は幸せを滲ませた声で言った。


葛城の照れたような、だけど大人びた表情に微笑みかけると改めて花束を見た。


「この青いお花、名前なんて言うのかしら」
優雅な雰囲気を持つ花の弁に指先を触れさす。

太陽が着々と沈んでこようとしていた。


「あー…何だっけ?花屋の店員が教えてくれたんだけど」

葛城は眉を寄せながら考え込む。

可純はそれを気長に待った。



「…あぁ!そうだ、ブルースターだよ。ほら、星みたいな形だから」

ちょうど、曲が終った頃に葛城は言った。

「ふぅん…綺麗な花よね…でも何故この花にしたの?普通メインはバラじゃない?なのにバラを脇役にするだなんて」


葛城は紅茶を一口飲むと、意味深な笑みを浮かべた。

「だって。可純にバラは似合わないだろ?こっちのが大人しくて可純らしい」

まあ、と可純は非難めいた声色を出した。

「女性にバラが似合わないって失礼じゃない?どうせ私は地味な女よ」

上唇を尖らせて葛城を睨む。

葛城はくすくすと品良く笑っている。


可純は先程から溜め込んでいた想いを吐き出してみるべきかと笑っている葛城を見て考えた。