可純が目を覚ましたのは、どのくらいか時間が経った頃だった。



「…ん」
抱き締められているのに気付く。
温かくて気持ち良い。

「…もっと寝てたらいいのに」
葛城が可純を見つめて微笑んでいる。
自分より先に起きていたらしい。

「…今何時?」

葛城が時刻を言うと、あまり時間が経っていないことに気付く。


だが熟睡していたらしく、頭はすっきりしていた。


「葛城くん、仕事は?」

いつもなら彼は仕事へ行く時間だ。
ベッドから出ようとしたが、抱き締める力が大きくて抜け出せない。

「今日は休み……そう言えばまともに話すの久しぶりだな」
葛城が嬉しそうな笑みを見る。

二人は多忙で、なかなか会うことが出来なかった。

彼女は翻訳者としてイギリスの出版社で働き出して間もないし、彼は喫茶店「S_lowS_now」の社長だ。当然忙しい。

「そうね…だけどもう忙しいのも終わりだし、これからは大丈夫よ」

「そうだと嬉しいけど。君の上司は意地悪だからね」

確かに。上司の怒った顔を思い出し、彼女は声をあげて笑った。


「…今日は出かけようか?夕方に健司がS_lowS_nowへ来てくれるんだ。それまでデートしようよ」

人懐っこい笑顔を思い出す。
彼の親友の健司は、毎月大きな彼女の等身大ぐらいある写真を持ってくる。なので彼の喫茶店は写真だらけなのだが、今日はそれを届けに来る日だったらしい。(それだけではなく、毎日一枚普通サイズの写真を送って来ている)

「ん、いいわね。どこへ行く?」

葛城は考える暇もなく即答した。


「水族館!…がいい」

葛城が少し前に可愛いペンギンが見たいと言っていたのを思い出した。

高揚とした葛城の顔を見てだんだん彼女もきれいな熱帯魚やクラゲが見たくなってきた。