「小山のことはここまでにしときましょう」


その言葉を聞いて、ようやくこの話題も終わりかと少し安心した。


「それより、トラさん。

また、あそこに行ったでしょう」


今度はその話か。

というか、何でこいつはそんなことまで分かるんだ。


「あそこって言われてもどこだか分からないです」


適当に誤魔化してはみたが、恐らく通じないことは分かっている。

しかし、何て勘の鋭い奴なんだ。

たまにだがこいつは本当にこういうことに鋭いときがあって、これは良いところというのではなく、たたの厄介なところだ。


「とぼけんな。

橋本だよ、は・し・も・と。

原付のメーター見れば一発で分かるんですらね」


「お前、俺のストーカーかよ。

はたまた、世話焼きの母親」


どっちにしろ全く呆れた奴だ。

人の原付のメーターまでチェックしているのか。


「そろそろ、次に進まないと」


「だめだ」


その言葉を聞き、四盛の話を遮るように言った。


「確かにあそこに行くのは良くないかもしれない。

けど、俺はまだ自分を許すことができないし、きっと弥栄だって許してくれるはずがない」


僕は許されることのないことをしたのだ。

それなのに、他の女の人を好きになって、そして付き合うなど絶対に・・・


「こうして、ちゃんと競艇学校の試験は受けるんだ。

それでいいだろ」


さっきまで自分がどういう表情をしていたか分からないが、わざとらしく笑顔を作って四盛に向けた。


「トラさんも頑固だからな。

まあ、とりあえずはいいってことにしておきますよ」


渋い顔をして四盛は了解した。

本当にこいつは後輩とは思えないくらい、僕に気を使ってくれていると分かる瞬間だ。



こいつのためにも、いつかは小山のことも弥栄のことも、ちゃんとけじめをつけなければいけないな。