最後の曲を歌い終わった。

流石に二十曲歌い切るのは疲れた。

日差しが差し込んでくるが、歌い始めた頃よりは太陽の位置も低く、強さは若干ではあるが和らいだ気がする。

まだ、太陽が高い位置にあったときは乗客も不思議そうな顔をしたり、怪訝そうな顔をしている人もいた。

一曲歌い終わったあとも反応はそれほど変わらなかった。



だけど、たった一人。

小さい子供だろうが「頑張れ」と言ってくれた。

一人の人の心を掴んだということが僕の気持ちを高揚させ、そして、次第に他の乗客たちもこちらに注目してくれ、声援を送ってくれる人、一緒にノってくれる人や歌ってくれる人、駅に着くたびに別れを惜しんでくれる人、様々な人が行き来した。

今、全ての曲を歌い終えたこの車両は本当にたくさんの人の笑顔で溢れている。


「皆さん、本当に本当にありがとうございました。

今の曲が最後の曲でした」


肩で息をしながら言う。

疲れたが、これ以上にないくらい満足している。


「えー、俺まだ2曲しか聴いてねえよ」


「あと、1曲。

アンコール、アンコール」


その光景に思わず生唾を飲み込んだ。

周りからは手拍子とともにアンコールが鳴り響いている。

涙が出そうなくらい嬉しく、下を向いたら本当に涙が零れてしまう気がした。

目を閉じ、天井のほうに顔を向けながらあいつに問いかける。


(ハマ、見ているか)