「豊さんには…沢山良くしてもらいました…。もう、十分です」


豊さんは離婚していて、あたしと19才で大学一年生の杉沢 喜一(スギサワ キイチ)、喜一お兄ちゃんと三人暮らしだった。


喜一お兄ちゃんの大学の授業料、あたしの治療費。とてもじゃないけど…払えない。


「…駄目だ夢月。治療を受けよう?俺もバイトするから!」


喜一お兄ちゃんは、あたしの肩を掴んで言い聞かせるように言う。


「…喜一お兄ちゃん、あたしはお兄ちゃんの勉強時間を削ってまで治療したいなんて思わないよ?いいんだ…これで…」


あたしを治療させようと、豊さんと喜一お兄ちゃんが必死に説得してくる。こうやって大切にしてくれるだけで…幸せだ。


「もう、止めよう?少し、体調が悪いんだ」


「夢月ちゃん……。そうだね、今日は休もう」


豊さんは部屋まで付き添ってくれた。あたしをベッドに寝かせて、布団をかける。


「…何で……夢月ちゃんなんだ……」


豊さんは悔しそうに顔を歪めて、あたしの頭を優しく撫でた。


「…豊さん…そんなに悲しそうな顔しないで下さい」

あたしが笑うと、豊さんはさらに辛そうな顔をする。喜一お兄ちゃんもそうだ。それが何よりも辛かった。

「おやすみ…夢月ちゃん」


豊さんはあたしの頭をもう一度撫でて部屋を出て行った。


―パタンッ


「………………はぁ…」


扉が閉まったと同時にため息が出る。


あたしが白血病だとわかってからずっとこんな話し合いが続いている。