凉花は卓也を見上げて聞く

「卓は今何をしてるの?」

「俺?今は車の販売。景気悪くてさ。上司に毎日こってり絞られてるよ。凉花は?」

「私は製菓会社の販売員。この時期が命なんだよね」

凉花からため息が吐き出される

「バレンタインだもんな。俺、凉花にもらったことない。何でくれなかったんだ?」

「…」

凉花が何かを言い返したが聞こえない

「何だよ、はっきり言えよ」

「だから、渡そうとしたの!あの時」

「あの時って何時だよ!」

「中3のバレンタイン。ちゃんと渡そうとしたしたの。でも…」

「ちょっと待て!なんで貰えてないんだ?」

「『守本は只の幼馴染み』『お前にやるよ』」

卓也は思い出したように言った

「あん時は…」

「もう良いよ。けど、バレンタインは嫌い」

「違うんだ!」

必死に卓也は言う

「あの時のことは本心じゃない。俺はずっと…」

「いいの。今更言い訳されても…」

卓也は寂しそうに言う

「そうだな。10年も前の事を言ってもなぁ。悪かった」

家路につくまで二人の間に会話が無かった

「じゃぁ、またな」

次いつ会えるかわからないのにそう言う卓也
「じゃぁ」

卓也が家の中に入って行く

玄関のドアがしまったと同時に、凉花は呟く

「卓のことずっと好きだったんだよ?」

その言葉は夜空に吸い込まれていく

誰にも聞かれることなく…