「奏?」


「なんですか?」


「俺、桜好きなんだあ」


「…今さら何言ってるの?」


そんなの、知ってるよ。

入学式のときだって言ってた。

それに、こうしていつも2人であの桜が見える渡り廊下で立ち止まるんだから。



「俺はな、キレイに咲いてる桜も好きだけど。

でも、その前のほうがもっと好きなんだ。」


「なんで?」


「だって、今から咲いてやろう!って力にみなぎってるだろ?

そういう姿見せられたらさ、俺も頑張らなくちゃ、って元気もらえるじゃん。


だから俺は蕾をつけた桜のほうが好きなんだ」


そう言ったよーたくんは、優しい顔をしていた。

心臓がドクッドクッと大きな音をたてた。


よーたくんの髪が風で揺れる。

そうするとさっきの表情に色っぽさがプラスされて。

鼓動がもっと、大きくなる。


そのとき、初めて気づいた。


私、よーたくんが好きなのかもしれない―――……



*****



「かなでー?何してるの?おいてくよー」


「うん、今行くー」


慌てて、走り出す。


あのときから、

私とよーたくんの関係は何も変わらない。


ただの、顧問とマネージャー

ただの、先生と生徒



…ただ、それだけ。