「…あ、いた」


「え?なんか言った?」


「ううん、なんでもない」


移動教室。

廊下の窓から見える桜の木。

今や桜は葉桜へと化していた。


そしてその木の下。

あの後ろ姿があった。



「ねえ、奏?」


「何?」


「竜崎、今朝告られてたよ?」


「へー、相変わらずモテてんね」


っていうか、なんでそんなこと私に言うんだろ、碧(アオイ)ってば。

碧は同じクラスで、入学式の次の日にひょんなことがきっかけで仲良くなった。

それからは基本、いつも一緒に行動している。


「…おもしろくない」


「え?なに?」


「反応薄すぎておもしろくないっ!」


なぜか碧はちょっと不機嫌で。

意味が分からない。


それに、今はそれどころじゃない。

類が誰に告白されてようと、どうだっていい。

どうせ、断るに決まってるんだから。

今までだってそうだったし。


それに、今はあの人のほうが気になる。

入学式。

あの桜の木の下で私に声をかけた、あの、先生のほうが…