「はあ…ったく、なんでかなあ…」


「ん?どうした?」


新学期が始まってもう2ヶ月以上が経っていた。

ときたま、桜の木の下に入学式で話したあの子がいるのを見かけた。

それを見るたびに俺は嬉しくなって。


でも、あの子がいるときに限って俺はたいてい忙しくて。

だから、あれ以来あの子とは話せていなかった。


そんなある日。

残業でほとんどの先生たちが帰った中。

職員室に町田先生の呟きが響いた。



「え?あれ?聞こえた?」


「うん、バッチし」


「あー…悪い。

完全に心ん中で呟いてたんだけど」


そう言って町田先生は溜め息をもらす。



「何?なんか問題?」


「いやあ…さ。

この子、なんだけど。


…なんでかなあ。

英語が足引っ張ってて、1位獲れないんだよ」


どれどれ、そう言いながら町田先生の机の上の紙をのぞく。

そこには『若林 奏』の文字。


下にはついこの間行われた1学期期末テストの結果が並んでいる。



「おー!すごいな、この子。

余裕でトップ…え?マジ?」


思わず、目を見張る。

キレイに80点以上の数字が並ぶ中、突然【25】の文字。

教科は…英語。


「な?すごいだろ?

英語がこの点のせいで1位、獲れないんだよ」


町田先生はそう言って。

また、はあ、と溜め息をついた。