入学式が終わり、職員室で軽く仕事をしてからまた、あの桜の木の下に向かっていた。

今年の俺の担当は2年3組の担任。


明日の始業式の準備はすでに終え、

今日は特にすることもなかった。



「……?」


あれ?

珍しいな…先客、発見。


滅多にこの桜を見に来る人なんていないけど。

でも今日は違った。


少し大きめの制服。

形が崩れていないカバン。

新品の靴。


…新入生、か。



「…キレイ」


女生徒が呟く。



「桜、好き?」


思わず声をかけた。

そうすると驚いたのか名前も知らない女の子は振り向いて、え?と言う。

だからもう1度、言った。


「桜、好きなの?」


「あ…はい」


「そっかー

俺も好きなんだー」


嬉しかった。

この桜を好きだと言ってくれる子に会えたことが。


だから俺は満面の笑みを浮かべた。


キミが俺を見ているとは知らずに。