「そう言えば見た?」


「何を?」


校長の話を黙って聞くと
ホントに寝てしまいそうだった俺は小声で町田先生に話しかける。



「裏の桜の木」


「ああ、チラッとな」


「もったいない」


ホント、あの桜見逃したら人生の何分の一か損してるって。



「よーたくんみたいにみんな暇じゃないの」


「だからそう呼ぶなっつーの。


って言うか誰が暇なんだよ。

俺だってちゃんと仕事やってます」


まったく、暇人呼ばわりしやがって。



「でもさあ、結城(ユウキ)先生、好きだよな。

あの桜の木」


「うん。好き。

落ち着くんだ、あれ見てると」


俺がこの学校に勤務するようになって2年目。

ついでに言うと町田先生は俺と同い年でまったく同じタイミングでこの学校に配属された。

そして2年前。

あの桜の木を見てから、俺の癒しスポットとなっていた。


花が咲いている桜だけが好きなんじゃない。

夏の桜も。

秋の桜も。

冬の桜も。


どれも、好きだった。

暇さえあれば俺はいつしかあの桜の木を見上げていた。