「……奏?」


幹にふれて高校生活3年間を思い出していた。

そうすると久々にあの声に名前を呼ばれ。

懐かしさで胸がいっぱいになる。



「奏、だよな?」

少しずつ近づいてくる気配を感じる。


こうして存在を意識すると、

胸の奥に厳重に鍵をかけてしまい込んだ想いが今にも溢れそうになって。

胸に手を当てて息を大きく吸い込んで、

鍵が開きそうになるのを阻止する。



「…久しぶり。2年ぶりだね、よーたくん」


振り返るとやっぱりそこにはよーたくんがいて。

最後に会ってから2年経っているというのに何も変わっていなくて。

そして、悔しいくらいに輝いて見えた。



「お前にそう呼ばれるとなんかヘンな感じだな」


「じゃあ先生、って呼んだほうがいい?」


「いや、さっきのでいいよ」


よーたくんはそう言いながら私の隣に立って私と同じように幹に触れる。



「懐かしいな。

よく、思い出すんだ。

この桜をお前と見上げてた日々を」


変わってないなあ、この人は。

ホントにどうしようもないくらい、女心を分かってない。


そんなこと言われたら、

普通の女の子は自分に気があるのかと思っちゃうよ?

でもね、大丈夫。

私はそんなことは思わない。

よーたくん、って人間を痛いくらいに知ってるから。

そんなバカな勘違い、しないよ。