「…バカ」
奏にそう言われなぜか睨まれる。
「直接渡してくれればいいじゃん」
「…うるさいっ!!」
不機嫌な奏は俺に背を向け、
男子たちの輪に交じりミニゲームを始めた。
「よーたくんさ、」
「なんだよ?」
碧が腕組みをして壁にもたれ、偉そうに言う。
「女心、分かってないね」
「え?女心?」
「そうだよ。
なんでわざわざ奏が靴箱にいれたと思ってんの?」
「…直接渡せなかったから?」
「そう。
今さら恥ずかしくて直接なんて渡せなかったの」
奏、カワイイところあるんじゃん。
「で、わざわざ名前も書かず、靴箱にいれたのに、
なんで確認しに来るワケ?
それじゃあ、恥ずかしいからって隠した奏の気持ち、無視じゃん」
碧の冷たい視線を受けながらミニゲーム中の奏を見つめる。
楽しそうに笑いながらボールを追いかけていて。
シュートが決まると仲間たちとハイタッチして。
「…なあ、碧」
「ん?」
「奏にごめん、って伝えといて」
「いいよ」
「それと、ありがとう、って」
俺は奏に声をかけることなく、体育館を後にした。