私と優太郎は、努のウタを遠くから聞いていた。

あのウタ…
陽菜へのウタだ…。

まだ努は陽菜のこと、忘れずに思っているんだね…。

私は、嬉しい半面、努が良美と付き合っていないんじゃないか…と不安になった。


しかし、そんな不安はすぐに飛んでいった。

私は、10メールくらい離れた所で、私達のように努のウタを聞いている子を凝視した。

「良美だ…」

即座に優太郎が聞いてくる。

「え、どこ?」


良美…東京に来てたんだ。
ここにいるってことは、きっと努と付き合ってるんだね。

声は出るようになった?

あぁ、懐かしいな…。

私は、不意に流れた涙を、誰にも見られないように即座に拭った。

「ねぇ、どこにいるの?」

周りをキョロキョロしながら優太郎が言った。

私は、良美を指差した。

「あそこ、ほら」

私がそう言った時、良美の隣にいた女の子が、ふらっとよろめいて、それを良美が支えた。

そして良美が女の子に、何かを話す。

あ…
良美、声が出るようになったんだね。

良美達は、近くの喫茶店へと入って行った。

「優太郎、行くよ」

私は、優太郎の手を引っ張って、良美達の後を追った。

喫茶店に入ると、すぐに女の店員が応対に来た。

「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」

「あ、はい」

私はそう言いながら、店内を見渡した。

入口正面がレジ。
レジから見て右側と左側に客席が分かれてあり、小さめの円卓に木製の椅子が備えられた客席が6つずつある。
小さめの店だ。

良美は…

−いた!
あの左側の窓際の隅の席!

私は、良美から顔が見えないように、良美を背にする形で、入口から左側の、窓から少し離れた席に着いた。

コーヒーとカフェオレを適当に頼む。