「電車の中にさ、バカップルがいたの!そんなに人は乗ってなかったんだけどさ、そのバカップル、いきなり電車の中でチューしだすんだよ!」


私がそう言うと、隣りにいる晴貴が返す。


「あぁ、いるね、そういう周りの目を気にしないカップル。でもさ、ちょっと羨しいよなぁ…」


「羨しいって何が?」


「だって俺、もう随分彼女いねぇよ」


「あっそう。晴貴、あんたモテないもんね」


バッサリと切ってやった。

実際、晴貴はそんなにカッコいいビジュアルではない。


そんな晴貴は、少し怒った口調で言った。


「言ってくれるね。確かに俺はそんなにハンサムじゃないさ。でもさ、ハンサムじゃなきゃモテないってことはないだろ?」


「…まぁね」


「だからさ、これから俺はモテる男になってみせるから」


「おっ!なれるものなら、なってみなよ」


「ああ、なってみせるさ!…で、どうやったらモテるようになるの?」


そう言って、上目使いで私を見た晴貴に、間髪入れずに私は言った。


「分からんのかいッ!」


「いや、だってさ、俺モテたことねぇし…」


「しょーがないね。…まぁ、モテる男ってのは、女心が分かるものなんじゃない?」


「女心?」


「そう。私が男役やってあげるから、あんた女役やってみなよ。それで女心が分かるかもよ?」


「俺が女で、お前が男。よし、分かった」


そう頷いた晴貴に、私は少し間を空けて言った。


「晴子、腹減ったなぁ」


いきなり晴貴の名前を、晴子と呼んでみたが、晴貴は何も反応しない。


「おい晴子、お前だよ!」


「…えッ!あ、俺…じゃなかった、私、晴子?」


「そうだよ、お前だよ」


「あ、はいはい。えーと、で、何だっけ?」


「腹減ったって」


「あぁ、お腹ね」


晴貴はそう言い、急に女役を過剰に演じた。


「いやん、晴子もポンポンすいたぁ〜。ねぇ、何か食べに行こうよぉ。それがダメなら、あなたを食べちゃうぞッ☆」