「あ、嘘ついた」
「ゴチになりまーす」
「軽音に入ってよ」
「手紙の件、私からもお願いします」
「勝負事向いてないみたいだね」
「また来ようね」
「大好きだよ」
陽菜の言葉を思い出して、爪を噛みながら何度も呟いた。
「嫌や…嫌や…」
事故は、バスとトラックの正面衝突だった。
その事故現場に救急車が来たのは、事故発生から1時間半後。
通りかかった車が、救急車を呼んでくれたのだ。
そして俺達は救急車で運ばれた陽菜が入っている、病院の手術室の前にいた。
あの可愛いかった笑顔。
あの優しかった陽菜。
さっきまで話してたじゃないか!
さっきまで笑ってたじゃないか!
陽菜が…死ぬ?
嫌だ…。
嫌だ…。
嫌だ…。
嫌だ…。
なんとかしてくれ…。
なんとかしてくれ…。
なんとかしてくれ…。
なんとかしてくれ…。
なんとかしてくれよッ!
「陽菜…陽菜…」
何度もそう呟き、爪を噛んだ。
何時間経っただろうか…。
理沙が陽菜の家に電話をし、陽菜の両親が病院に駆け付けた。
「は、陽菜は?」
息を切らした母親が、第一声にそう言う。
何時間も開かない、重い扉を見つめて、俺は言った。
「…この中です」
「ど、どんな感じなの!」
「分からな…」
俺がそう言いかけた時、手術室の赤いランプが消えた。
中から医者が出てくる。
「陽菜は?陽菜は?」
母親は、医者の肩を揺すって、そう聞いた。
医者は、首を振った。
…横に。