「い、やだよ・・・!行かないでぇ、」


それでも、栄太郎さんの袖を掴んで駄々をこねた。
そうすればいつも栄太郎さんは優しく笑って言うとおりにしてくれた。
今もきっとそうしてくれるという希望を込めて、駄々をこねた。
でも、なんでか知らないけれど、涙があふれてきた。


それを見た栄太郎さんは優しく微笑んで、私を抱きしめた。
栄太郎さんの優しいにおいが、私の鼻をかすめる。



「え、たろ・・・さん?」


「空音。黙って聞いて。空音はさっき、なんで戦うのか、聞いたよね。なんでかっていうと・・・ぶっちゃけ自分でも曖昧なんだ。でも、ひとつだけ言える。
誇りを、護りたい。好きだから。ずっと、幸せでいてほしいから。」


「誇り・・・?」


「うん。誇り。」


「誇りって何ですか?そんなに、命を懸けてまで護りたいものなんですか・・・?」


「俺の誇りは、空音だよ。命を懸けてまで護りたい。最期まで幸せに生きてほしいんだよ。」


真剣な声色に、返す言葉が見つからなかった。



ゆっくりと栄太郎さんは私から離れて、流れている涙をふき取った。


「だからね、空音。絶対後ろを振り返っちゃ駄目。前を向いて、背筋を伸ばして生きていくんだ。」


最後に栄太郎さんは優しく微笑んで、私のおでこに口付けをした。
やわらかくて、温かかった。



栄太郎さんは立ち上がって、ゆっくりと襖を閉めた。