「ゆーうーりー!侑吏ってば!」



鞄を手に出勤する者。おはようと口々に交わす学生の姿。
変わらぬ朝の日常光景。此処にも一つ、変わらぬ光景があった。


「ッだー!由!朝からんな叫ばなくたって分かってんだから大人しく待ってろよ」


そう言う自分の声音はどうなのだ、なんて。とうの昔から考えなくなってしまった。――何故なら、このやり取りをもう10年は続けているのだから。

「だって侑吏、私が呼ばなきゃ出て来ないじゃない」



萌城 由[モエギ ユイ]

黒髪セミロング。身長は平均的と、誰が見た所で何処にでも居る女子高生と自分は言い切れてしまう。



「…んな事ねぇだろ」

隣歩く彼は未だ眠気が取れないのか、欠伸を一つ。そして言ノ葉を小さく紡いだ。



折原 侑吏[オリハラ ユウリ]

頭脳明晰。運動神経抜群。おまけに容姿端麗。唯一の欠点と言えば、芸術的センスが皆無に等しい事くらいであるが総合的において其れはマイナスにはならないだろう。
そう。云うならば折原 侑吏は天に二物も三物も与えられし男。

そんな彼と彼女は世間一般で幼馴染と呼ばれる関係にあった。