遥兄ちゃんの部屋のドアが空いて、誰かが入ってきた。
遥兄ちゃんの手が止まった。
そのすきに、あたしは起き上がってベッドの隅まで這いつくばった。
「てめぇ…、誰だよ…!」
遥兄ちゃんは、ゆっくりと立ち上がった。
あたしは、体育座りをしてガタガタと震えているしかなくて。
入ってきたのが誰かさえも、わからなかった。
「俺?俺は、妃菜のご主人様だけど」
ご主人様……?
あたし、の……?
「…と…う…む…くん?」
「俺の所有物に何してくれてんの?」
冬夢くんの声には、凍りつくような迫力があった。
威勢の良かった遥兄ちゃんが、一瞬どもる。
「………はあ?お前が妃菜のご主人様?だいたい妃菜はお前のもんじゃねぇよ」
遥兄ちゃんが馬鹿にしたように笑った。
「俺は妃菜のご主人様なんだよ。妃菜は俺のモノ。妃菜、帰るぞ」
冬夢くんが遥兄ちゃんを押しのけて、あたしの前まで来てくれた。
「妃菜」
冬夢くんが手を差し出してくれた。
あたしはその暖かい手を、ゆっくりと掴んだ。
「待てよっ」
遥兄ちゃんの怒鳴り声に、あたしはビクッと肩を震わせた。
怖い……怖いよ……っ
「………もう用なんてないだろ」
あたしを守るように、あたしを背にして冬夢くんが言う。
「俺はずっと妃菜のことが好きだった。兄としてじゃない、男としてだ。だから、俺は妃菜を諦めない。」
遥兄ちゃんが、ニヤッと笑った。
遥兄ちゃんが、あたしのことを……?
嘘でしょ……?

