「……な、妃菜、妃菜!」




誰かがあたしの名前をいってる……?


あたしはゆっくりと体を起こした。




「………川瀬さん?」




目の前に立っていたのは、昨日見た川瀬さん。




あたし…、寝てたの?




「大丈夫か?」


「あ、はい、大丈夫です…」




ちょっと待てよ…?




あたし、パスタのソースを作って、麺をゆでてて、ゆであがるまでテレビでも見てようと思って…。




って、あれ?




「パスタ!!!!!!」




あたしは急いでキッチンへと向かった。




麺は黒こげ、鍋も焦げ目がついちゃってる。




あーあ…。


やっちゃったよ…。




「おい」




いつ移動したのか、隣から川瀬さんの声がした。


怒られる…、そう思ったあたしは反射的に頭を下げた。




「すみません!うとうとしちゃって…。本当にすみませんでしたっ」




本当に最悪…。


なんで寝ちゃうのよ、あたしのバカ!!




でも、いつになっても怒鳴り声は聞こえなくて…。




恐る恐る顔をあげると、川瀬さんは鍋に入ったソースをじっと見つめていた。




「これ、妃菜が作ったのか?」




ソースが入った鍋は火を消しておいたから、無事なんだ…。




「あ、はい。家にあったものだけで作ったので、おいしくないかもしれないですけど…」




トマト缶にツナとチーズをまぜて煮込んだソース。




「うまいじゃん」




どうやら川瀬さんはソースを食べたらしい。




「良かった……」




あ、でもパスタがないじゃんっ。


どうしよう…。




「パスタ、もうないんだろ?飯食いに行くぞ」