とりあえず話をしようとドクが言い出し、3人は桃の木の下に敷物を敷いて座った。
6月の少し湿っぽい風が暖かい陽射しの中、吹き抜けていく。

「ルカ、立て札がないとはいえ、ここの桃はサラの家の桃だ。人様のものを勝手に取るのは悪いことだ。分かるよな?」

ドクが優しく諭すように話すが、当事者は耳に入っていない様子だった。

「なぁなぁ、どこに住んでるんだ?俺な、ルカっていうんだ。サラって呼んでいい?」

ルカは体ごとサラに向かって話しており、ドクの存在自体忘れかけている。
年下の男の子に迫られているサラは、少し苦笑しながらも応対していた。
人の話を聞け、とドクが右手を上げた時、ルカが言った。

「サラ、その包帯どうしたんだ?ケガでもしたのか?」

聞かれた本人とドクは一瞬だけ動きが止まった。
そしてドクの瞳が揺らぐ。
言うか、言わないか。

「あのね、病気なの、私。左腕はもう…だめなの」

ドクが言い惑っていると、サラが自らそう言った。
急に悲しげな表情になったサラに、ルカは明るい声を出す。

「病気ならいつか治るって母ちゃんが言ってたぜ?今、母ちゃん風邪ひいてるけど、すぐ治るって父ちゃんも言ってたし!」

満面の笑みで、力いっぱい励ましたつもりだったが、サラの表情は暗いままだった。

「だめなの。…治らないの、私の病気は風邪じゃないから。生まれてから死ぬまでずっと続くから」