翌朝、村は静けさの中動き出していた。
仕事を始める男たちや、家事に勤しむ主婦たちには笑顔が見られず、どこか暗い表情だ。
毎朝うるさいくらいに響いていたルカの声が聞こえず、どこか物寂しさを感じているからだった。

「なんだか急に静かになったわね」

「そうねぇ。ルカの声に笑う人たちが沢山いたものね…」

「もうあの声を聞けないと思うと、少し寂しいわ」

いつもの主婦たちが路傍で話している。
その表情もやはり、明るさと快活さがない。
静けさは朝日が天を通り過ぎるまで続いた。

午後、サラは1人村の中を歩いていた。
寂寥感漂うサラを見兼ねて、サロメが散歩でもしてこいと言ったのだ。
村人たちはいくらか元気を取り戻しているようで、ちらほらと笑顔も見える。
そんな中、大股でこちらに向かってくる男がいた。

「ガランさん…」

場違いな程に陽気に見えるガランはサラの前で立ち止まると、背に隠していた花束を差し出した。

「サラ。ルカのこと、残念だったな。これ、墓にでも飾ってくれ」

いかにも気遣っているような声と、眉間に寄せたしわが逆にガランの下心を明確にしている。
そんなガランのあけすけな態度に、サラは静かに怒りを感じていた。

「…」

「しかし、あいつもバカだなぁ。うちの親父…いや、所長を敵に回すようなことをするからだ。俺に媚でも売っときゃ違ったかもしれんのにな。はっはっは」

ガランの声に周りにいた村人たちが口々に悪口を漏らすが、サラはただ黙って差し出されたままの花束を見つめていた。