カガミが村で騒動を起こしてから2日が経つ。
謝りはしたものの、ルカは朝の日課を止めようとはしなかった。
しかし村人の反応は少し変わり、今は危ないものを見るような目つきになっている。

「狼が出たぞー!!」

ルカが大きな十字路で叫ぶと、周りにいた主婦たちが口々に言う。

「やめなさいよ。今度こそ大目玉くらっちゃうわよ?」

「そうよ。村長さんに迷惑かけちゃだめよ」

「それに所長に伝わりでもしたら…」

1人の主婦がそう言った途端、一気に周りが静まり返る。
人間族の所長ガジェットは義侠心の塊だが、それゆえに悪や罪に対する目はひどく厳しい。
彼は仁者だと謳う人もいるが、噂や口伝いに聞くだけだと恐ろしい人物だと思える。

「もしかしたらもう伝わってるかもしれないわよ…。この前の騒ぎでガランも責任を負わされたようだし…」

沈黙の中にぽつりと主婦が言葉を漏らし、主婦たちの目は哀れみを含んでルカに向けられた。

「な、なんだよ…。大丈夫だって!」

ルカはそれだけ言うと主婦たちの視線から逃げるように走り去った。
行き先はサラの家。

「サラ!」

いつものように叫びながら扉を開けると、目の前にサロメが仁王立ちしていた。

「…」

「お、おはよう…おっさん」

「おっさんじゃねぇ」

「おじさん!」

ここ2日、いつもとちょっと違う日課ができた。
ルカがサロメに挨拶と、“おっさん”呼ばわりしないまで家に入れてもらえないのだ。
サロメは満足そうな顔をしてキッチンに向かい、ルカは一勝負し終えたような疲労を感じつつ家に入る。