鮮血色の座布団に鎮座する、黒々とした玉。その大きさは、大体人間の頭部程であろうか。四方には防弾ガラスが幾重にも重なり、その宝玉は護られている。更には緑色線のセンサーが、監視するかの如くロープの中を行き来する光景を、コウは少し離れた場所で眺めている。

「ブラックパールが気になるのか?」

落ち着いたテノールが聞こえたので、コウは声の主に向き直る。

「師匠。」

「確かに、あの厳重な警備は疑問に思うかもしれないね。」

「そんなに、大切な物なのですか。あの黒い塊が?」

「勿論。」

「…あたしには、ただの玉にしか見えません。」

「まあ、そうだろうね。何故なら、唯の黒塗りの鋼の玉なんだから」

「え?!」

「冗談だ。」

しれっと笑顔で嘘を付く師匠に、コウの目は白んだ。そんな弟子の姿にクスクスと笑う彼は、息をついて話をすり替える。

「さあ、モレトに戻って聖戦学の続きをしよう。」

「はーい…。」

結局あれが何なのかコウは知らぬまま、モレトに足を運ぶのだった。