「帰れ・・・か」
僕は独りごちた。

なぜ帰らなければならないのだろう。
沖岡はどこに帰るのだろう。

なぜ帰る必要があるのだろうか、今の暮らしに疑問は無い。ドラム缶でも勉強できるし、雨が降っても、太陽が照り付けても傘を差せば凌いでゆける。
食事は駅前のコンビニとファミレス。
お金も今のところ大丈夫だし、父も母も旅行で日本にいないから来ない。
それにきっと本気で心配なんかしてないと思う、もしそうならすぐにでも帰国してくるはずだ。
今頃は北京のオリンピック競技場でも取材しながら写真を撮りまくっているのだろう。
そしてそれを自分たちの雑誌に載せるのだ。
毎度毎度のように「仕事で趣味と実益を兼ねるというのはいいわぁ」と猫のように母は父に言うのだろう。

もうドラム缶に入って八日目だ。八日の間に何が起きているだろうか、僕はテレビがとても好きなので見ていないとちょっと気になる。
けれども大そうな事は起きている訳でもなさそうだ。
みんなが、「あぁー幸せだー」と思える事件でも起きて、みんながハッピーになればいいのに。
結局のところみんな自分が可愛い、僕もそうだ、だから自分がハッピーなことは出来ても、他人にハッピーなことをするのは難しい。
他人にハッピーなことをする人間が少ないから、他人にハッピーなことをする人間が偉いといわれるんだ。きっと。
もう夜だ、星がすごく奇麗に輝いている。
腹が減ったからコンビニに行こう。

「生まれ変れたらこんな悩みは無くなるのだろうか・・・・」
道すがら、僕はまた独りごちた。