お婆ちゃんの家の丸い朱色のお菓子入れにはね、コンペイ糖があってね、その日の私はなぜか白のコンペイ糖だけ食べていたの、何でこんな事したのか自分でも分らないんだけどね、いつもは何色でも食べていたはずなのにね、ピンクとか緑とかも食べるはずなのにね、そんな事をしていたの。白のコンペイ糖が無くなった時にね、箱の中に潰れたコンペイ糖が見えてね、私はほかの色のコンペイ糖を机の上に全部並べて湯飲みで潰し始めたの。私は夢中でゴリゴリ潰し続けたわ。砂糖ってね、やっぱり白いのよ。緑もピンクも黄色もね、粉々に潰れちゃうとね、やっぱり白いのよ。私が机の上でそれを全部潰し終えるとね、お婆ちゃんがね、戸棚の中から竹箒を持ってきてね、それをビュンビュンいわせてね、私に叩き付けるのよ。すごく痛くてね、私は延々と泣き続けたわ。粉々になったコンペイ糖は埃みたいに宙に舞ってね、お爺ちゃんの写真は仏壇の上でカタカタ揺れていたの。その時はどうしてこんな事されるのか分らなかったわ。けどね、今なら分るわ。私はね、お父さんが死にそうな時にね、コンペイ糖をゴリゴリ潰していたの。床灰を作っていたのよ。お母さんはね、お父さんが死んでからね、自分でね。わかるでしょう。音羽君。わかるわよね。だから私はお婆ちゃんと暮らしてるのよ。お母さんはね、飛び降りるほんの少し前にね、私の頬を撫でながらね、『お父さんを愛してるの。愛してるからね。強く生きるのよ』そう言ったわ。愛してるって二回言ったの。そしてね、ドラマみたいにね、なっちゃったの。お母さんはね、私を連れて行ってくれなかった。どうして?どうしてなのよ?私を連れて行ってくれなかったのはなぜなの?それが愛なの?ねぇ!死なないでいて、私と生きることが本当の愛なの?本当は愛なんてなかったのかしら。私は捨てられたのかしら。どっちだと思う。音羽君はどう思うの。私はお父さんを愛してなかったのかしら。だからお母さんと同じ事が私には出来なかったのかしら?飛び降りる前にお母さんが言った、二回目のあの愛してるは誰に言ったの?私を愛してるって言ってくれたの?お父さんに言ったの?私、藁をも掴む気持ちなのよ。お願い教えてよ。音羽君。ねぇ・・・」