「ゴメンネ、私何であんな事したのか分ってるけど上手く説明できない。
私ね、幼い頃に両親を亡くしてしまってね。何ていうか・・・・・・。
私ね、孤独に絶対はないと言ったけど、差はあるって思ったのよ。
そしたらね、なんかね、気付いたらね」

僕は「もういいよ」と返して、とにかくいっぱい花弁を集めようと言った。

しばらく掻き集めたら、花弁は小山になった。
試しに点火してみたが、火は点らなかった。着火剤を入れて再び火を点し、初めて花弁は炎に包まれた。
細く白い煙をくねらせながら、所々に黄色い炎が舞った。花弁は、桜色から鳶色に変わり、
やがて漆黒に変化した。

「無理よ、絶対に無理よ」
隣で香山さんはそう言った。炎は先ほどの勢いを無くし、気弱く、ポツリと燃えている。
僕はダンボールを千切った。
「このままでいいのよ」
香山さんは僕の手からダンボールを奪い取って、「ねぇ、何か忘れていると思わない」と言った。
僕は家を出るときから、頭の端でずっと何か忘れていると考えていたのだった。
「そうなんだ。何か忘れている様な気がしてたんだ」僕がそう言うと、香山さんが「そうよねぇ」と返した。
「何を忘れているんだろう」
僕が訊くと、香山さんは軽く握り締めたコブシを振った。
「なになに?」
僕が言うと、香山さんは「塩よ!塩!」と答えた。
「本当だね」
僕が答えると香山さんは、「今度はあなたが待つ番よ。私が塩を買いに行って来るから、それまでに火をおこしておいてね。あなたが部屋を片付ける時間よりは早く戻ってくるから」と言って駆け出して行った。
駆けながら空を仰いで、「あぁ、凄い星、きっと宇宙に太陽が散らばっているのね」と香山さんは言った。
僕も空を見た。
星なんて一切出てなかった。
「星なんて出てないじゃないかよ」と伝えようにも香山さんは既に遠くに行ってしまっている。

『ひきょうもの・・・』
僕は心で思い、「でもないか・・・」と独りごちた。