部屋を片付け終えると夜になった。

『何かを忘れている』
夜空に星が輝いている。
『何かを忘れている』
夜空に星が輝いている。

『食べ物を忘れている』
それを思い出した。
僕はジャガイモと着火剤を持って空き地に向かった。

『何かを忘れている』
それでも何か忘れているような気がした。
果たして何を忘れているのだろう、僕は空き地に向かいながらずっと考えていたが何も思い浮かばない。
だからきっと気のせいなのだろうと自分に言い聞かせた。

空き地に戻ったら、香山さんが既に戻っていた。
緑の髪が相変わらず綺麗だ。

「お帰り」
香山さんは手に札束を皺くちゃに握り締めている。
香山さんは繁々と僕の顔を見詰め「ゴメンネ」と言った。
「もういいよ」
僕は手渡された皺くちゃのお札を受け取った。
三百枚程のCDは福沢諭吉4枚に変わっていた。

「ヒドイ奴だなぁ、借り物のCDも、親父の大切にしているタンゴも無くなってるんだもんな」
「ごめんね」
香山さんはプラスティックのバケットケースに腰を下ろして、しおらしそうにしている。
「何であんな事したんだよ。片付けるの大変だったんだぞ」
「あなたは・・・」
香山さんは何か言おうとして言葉を詰まらせた。
そして「食べ物持ってきた?」と訊いた。
「うん」
僕はジャガイモを掴んでそれを見せた。
そして、「焼きジャガイモ」と呟いた。
僕は更に着火剤を見せた。
「何それ?何を焼くつもりなの?」
「突然思いついたんだけど、桜の花弁で焚き火をしようと思って持ってきたんだ。これで焼きジャガイモをしようよ」
香山さんは「やってみるの?」そう呟いて、空き地を埋め尽くす桜の花弁をぼんやり見ていた。
僕は香山さんの反応は無視して桜の花弁を掻き集めだした。
「頑張ろうね」
相変わらず座ったままで呟いた。
僕が何度か「君も手伝えよ」と言った。

「ひきょうもの・・・」
そう呟いて彼女はようやく腰を上げた。