「戻ってきたんだね」
そこには焚き火があった。
香山さんは火に彩られ、頬が赤々と燃えている。
緑色の髪は火の色に染まっている。
全てが茜色になっていた。
僕は「うん」と一言答えた。
それは弱々しい声だった。
僕の目の前に茜色の香山さんが近づいてきた。
唇が触れる手前で彼女は僕に微笑みかけた。
僕はどきどきしながら彼女の行動を見詰めている。
そして「私はね、テスト52点だったの。1の位だけ同じね」と言った。
その声はとても優しく、僕はとても嬉しくなってしまってニヤつきそうな気持ちをひた隠していた。
鼻息が漏れた。
香山さんの頬に息が掛かる。

香山さんはすっと僕から離れた。

そして「だからどうしたって言うのよ!甘ったれるんじゃないわよ!」と厳しい声で言った。
香山さんは嘲笑混じりの嫌な顔をした。
僕は逃げた事を後悔しながら、買ってきたカッターナイフを握り締めていた。
桜の花弁が風に舞い、焚き火の側に落ちた。

「私のおかぁさんは死んでしまった」
彼女の言葉を思い出した。