僕はアダムに、何としても帰らなくてはならない。そうしないと死んでしまう。そう言って懇願した。けれどもアダムとイブはその声を無視した。僕はいよいよ不安が煮詰まってしまって、その捌け口を求めた。情緒が暴走を始めた。気が付けば僕はイブを殴りつけていた。
『僕を地球に返せ!戻すんだ!ばかやろう!』
隣でアダムは黙っていた。僕は虚しくなって、手を止めた。
しかし手を止めるのが遅かった。僕が犯した過ちはイブには許されなかった。イブは体中から蒸気を噴出して、『オトコハオンナヲキズツケテイキテキタ。ソウシナケレバコドモガツクレナイカラダ。アルテイドマデハユルス。ケド、コンカイノキミハユキスギネ!』そう甲高い電子音で言うと、パンチを繰り出して僕の身体を光速で吹き飛ばした。アッパーカットだった。僕の身体は物凄いスピードでその星から遠ざかって行った。僕は意識が朦朧としてきた。その薄れゆく意識の中で僕に話し掛ける者があった。それはアダムだった。アダムは僕を必死に追い掛けながら、いつまでも、『ダイジョウブ!ダイジョウブ!ゴメンネ!ゴメンネー!』と叫んでいた。僕達は二本の光の矢になって、果てしなく続く宇宙に消えて行ったんだ・・・・・・」

「・・・・・・・何なのそれ?」
隣で香山さんがうっとうしそうに言った。
「君が何か話せって言ったんだろ!」
僕は気恥ずかしくなった。
「本当にそんな夢見たの?」
香山さんは呆れながらもそう尋ねた。
僕は首を振って一言、「見てない」と答えた。
すると香山さんは、「あんたやっぱり変よ」と言って緑色の髪を振り乱した。

香山さんが夢を見ている頃、僕はこの夢をノートに書き込んだ。