「音羽君あのね・・・」
後ろに担任の沖岡が立っていた。
「そんなことじゃあ困るんです」
こいつは好きじゃない。

「青春時代というのは様々な事をしたくなるものです。けれどもあなたがそのドラム缶から出ないと、きっとあと何年かしてから、どうしてこんなことをしたのだろうと後悔する事になるのです」

この眼鏡の
タラコ唇の
ノッポの
ケーハクの
緑スーツは

いつも最初だけは僕たちに理解を示した様なことを言うのだ。
けれど僕らは分かっている、『結局は反対』なのだ。

結局は結果の世の中だ。
彼らはシステムの中で生き、システムを保持する為にここに来ているのだ。

そのシステムに含むことができない僕は彼らにとって害虫以外の何物でもない。
害虫は妨げ、隔離する事が出来る。

しかし僕らは人間である以上、彼らのシステムの法律と言う規制の中でそれを実現する事が出来ない。

彼らはそこに痛みがある。

痛みはうっとうしい。

うっとうし過ぎるのだ。そうだ、結局は僕らがうっとうしいのだ。

彼らはその事実を隠している。
僕らに気付かれまいと優しく笑って言っていても、僕らはそんな薄ら笑いなんてすぐに見抜いてしまう。

お為ごかしに『後悔する事になるんです』と言うが、本当は後悔したくないのは自分のくせに。

腐った蜜柑の一部が連鎖する様に自分が巻き込まれて自分がシステムに取り残されてしまうのが怖いだけなのに。

しかし何も僕は彼の言動を否定するつもりは無いし、システムに組み込まれる事を拒否している訳でもない。

つまりはこう言う事なのだ。

沖岡がシステムの中で生きる事を選んだ様に。
彼なりの理屈で考えて自身の『選択』をした様に。
僕にも選択する為の考える時間が必要なだけなのだ。