「あんまり話したこと無かったけど、香山さんって女の子らしいんだね」と言うと、彼女は即座に「その手には乗らないわよ」と返してきた。

僕はすごく恥ずかしくなった、そして訳も無く「違うよ!違うよ!」と何度もそう言った。
すると香山さんは「あんたって男らしくないわね」と言ってドラム缶の奥に引っ込んでしまった。
僕は『何でそんな事言われなきゃならないんだよ』ってすごく言い返したかったけれども、もうなんだかすごく惨めになって、僕もドラム缶の奥に引っ込んだ。
しばらくして、「苛めてゴメン」と彼女が言ってきた。
僕は惨めな気分を何とか戻して「うんいいよ」と答えた。
顔を出すと香山さんはドラム缶の縁から出していた。
僕は手を出して彼女に握手を求めた。
すると香山さんも手を差し出した。ピンクのネイルペイントがすごく綺麗だった。

「本当にゴメンね」

僕がネイルペイントに見とれていると香山さんはもう一度、そう呟き、そして掌を開いて、「ねぇ、音羽君、三万円貸してくれない」と言った。
彼女は開いた掌をもう一度、摺り寄せるように僕の手に覆い被せた。

生暖かい感触が僕に伝わる。

僕は快く「いいよ」と言ってお金を渡した。

「変な奴」

彼女は三万円を受け取るとそう言った。